第1章

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にもかかわらず競って2輪車の運転免許証を取得し、これ見よがしに学校で自 慢しあっていた。 1月生まれの雄二は夏休みに運転教習所へ通い、1月の誕生日と同時に自動2 輪車の運転免許を取得するつもりで、そのことを父親に話し了解を求めた。 第一次ベビーブームの最中に生まれた雄二の父親は戦後すごい勢いで発展を続 けていたモーターリゼーションの申し子の様な男で、若い頃は大型のオートバ イにまたがり背中にどくろの絵を描いた革ジャンバーをきて、世間からはカミ ナリ族などと呼ばれ、銀座四丁目を疾走する姿がアサヒグラフの表紙を飾った こともあったと、雄二は聞いていた。 そんな事なら、自分にも理解があるだろう、という雄二の考えは甘かった。 父親の返事は「ノー」だった。    「学校で禁止されているものを取得することはない」    「でもみんなが持っているし、どうしても欲しいんだ」 暫く考えていた父親は雄二が思いも付かないことを言い出した。    「そんなに運転免許が欲しいなら船の操縦免許を取得したらどうだ。     まさかこれは学校で禁止されていることも無いだろう。     それに4級小型船舶操縦士の免許は、満15才9ヶ月から試験を受け     られるから、それが良いいんじゃあないか?」 そんなこともあって中学3年生の夏休み後半に、今まで貯めてあったお年玉を つぎ込みボートスクールに通って16才になる前には4級の小型船舶操縦士の 免許証を手に入れたのだった。 そしてヨットの専門雑誌を買い込んできてはクルー募集の記事に目を走らせ、 横浜市民ハーバーを本拠地にしている42フィートの大型外洋セーリングクル ーザーの最年少クルーして横浜市内で歯科診療所を営むオーナから乗船を許可 された。 雄二にとって初めての経験であり、未知の事が次々と分かってくるヨットの航 海術は飽きることがなかった。 彼は暇さえ有れば雨の日も大風の日も横浜市民ハーバーへ通い詰め、日本のヨ ット界でもかなり名の知れたベテランクルーにかわいがられ航海のいろいろを 仕込まれた。 こうして高校時代の3年間を海の上で過ごしたのである。 ある日あまりにヨットに入れ込みすぎている雄二を見かね、母親が雄二に聞い たことがあった。    「風の強いときも横浜のハーバーへ出かけているけど、ヨットってどん     な天気でも走れるの」
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