第1章

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   「それはそうだよ、ヨットだからね。でもお母さん、海に出ない時でも     ラジオを聞きながら天気図を書く練習をしたり、ヨットの中を掃除し     たり、みんなの食事の料理を作ったりといろいろとすることがあるん     だよ」 ベテランのヨットマンになったように雄二は得意顔で云った。 そんな雄二なので普通の人よりは海に慣れている筈であったが、この巡視船 「うらが」の場合はどうも勝手が違っていた。 外洋型のセーリングクルーザーのゆったりとしたローリング(横揺れ)、ピッ チング(縦揺れ)もかなりの船酔いを招いたものだったが、巡視船のそれは半 端なものではなかった。 何しろ3階建のビルほどはあろうかと思える太平洋の大きなうねりの中に、船 首を突っ込でいく。そして船首から3分の1ほどが波の中に入ったまま走るの である。 そんな状況の中でも、乗員は粛々と仕事をこなしており、雄二を含めた3人の 新人だけが青い顔をして時々便所へ駆け込みながらも、フラフラと幽霊の様に 作業らしき事をしているのである。 第3管区海上保安本部所属巡視船「PLH04・うらが」は横浜を母港とし、 小笠原諸島父島の二見港を第2母港とするヘリコプター1機搭載型で、198 0年3月5日に日立造船舞鶴造船所で竣工した、つがる型巡視船であり、読者 もよく知る初代南極観測船である砕氷船「そうや」の準同型後続船として建造 された。 姉妹船には「つがる」をはじめ、「おおすみ」「ざおう」「えちご」など9隻 がある。 総トン数3、221トン、満水排水量4、037トン、全長105.4m、幅 14.6mで2基2軸15600PSのデイーゼルエンジンを搭載しており航 続距離は約6、000浬(かいり)(1万1千112km)、最高速で約23 ノット(約43km)を出すことができる。 乗船定員は69名、エルコン35?o単装機関砲1門、JM-61M20?o多銃身 機関砲1門、そしてベル212型中型ヘリコプターを1機搭載しており、大規 模な警備救難活動が発生したときは、指揮船として活躍する能力を備えている。  (注)  巡視船「うらが」は1997年3月24日、第3管区での任務を終え  鹿児島に本部を置く第10管区へ転籍となり、その名も「はやと」と  して現役で海上警備の任についていたが、その後退役し現在は海外で  第3の余生を送っている。
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