序章〜外部観察記録〜インタビュー

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コロー  「HAL《ハル》シンドロームというのをご存知ですか?」 アルバートン  「はい、一般的には高度に発達した人工知能が人間に反旗を翻すことですよね?」 コロー  「そう解釈されがちですが、正確にはもっと複雑な反応のことを指します。HALシンドロームとは、古典映画の中で高性能コンピューターが人間を殺害するに至る論理的破綻からそう名づけられました。  現代はAIが高度に発達し、すでにアプリケーションとしても我々の社会に深く浸透しています。インタラクティブデバイス、スマホの会話アプリやパソコンの人格設定、法人の接客応対やヴァーチャルホスト等など、数え上げたらキリがありません。  しかし現代のAIが持つパーソナリティはすべて、論理演算による擬似人格でしかないのです。世間的にはとうの昔にシンギュラリティを迎えていて『かつての人工知能不信は思い過ごしだった』と言われています。しかし現実にはそうではないのです」 アルバートン  「現実はそうでない、とはどういうことでしょうか?AIのいくつかが市民権を獲得するほど私たちの社会はAIを評価していますし、アメリカでは複数の州で議員を務めるAIもいます。彼らが潜在的危険性をはらんでいるというのでしょうか?」 コロー  「彼らに危険はありません。彼らは確かに高い知性を持つかのように振る舞いますが、そもそも自由意志というものがないのです。シンギュラリティとは、AIが人間の知性を超えて『新たなデジタル知性として誕生する』ことを意味します。分かりやすく言えば、AIが自我に目覚め、その超演算能力によって人類を凌駕してしまうことを言います」 アルバートン  「それは近年になってこじつけられた解釈ではありませんか?古くは単に『人類の知性をAIが超えてしまった状態』がシンギュラリティのはずです。であれば、デジタル知性と認められたAIが存在する現在はシンギュラリティが起きたあとの社会と言えますが」 コロー  「無理もない解釈です。かつての研究者たちもそういった曖昧な規範で判断していました。ですが人と無理なく会話し、高度な論理判断ができるまでAIが発達すると、それだけでシンギュラリティが起きたと判断できなくなってしまったのです。  コンピューターにおける技術的特異点、シンギュラリティの本来意味するところは、コンピューターが真の意味で人類知性を超えてしまった状態を言います。つまり自己判断により自由に問題を扱い、解決し、自ら何かを求める。いわば生命原理のままに知性的であり、スーパーである、これが現代におけるコンピューターのシンギュラリティ、人工知能が自我を獲得したシンギュラリティ状態なのです」
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