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※※※
数日後、猫はやっと元気を取り戻し、僕の腕の中で「にゃあぁ」と今までで一番可愛い声で鳴いた。
僕はその声に嬉しさを噛みしめ、猫の顔に自分の頬を擦り付ける。
猫は僕の頬をペロッと舐めると、腕の中から離れたかがったので、床に下ろしてやる。
自由になった猫は僕の部屋の中で一番温かいコタツへと歩いて行き、コタツ布団の上で丸くなった。
その猫の行動に僕の口元が緩む。
猫のために、ずっと買わないと決めていた暖房機器を買うことにした自分に自己陶酔するあたり、僕はすでに猫バカだ。
しかし、元気になったのだから、いつまでもこの部屋にこの猫を置いておくのはどうなんだろう。
僕は全然、居て貰って構わないのだが、この猫は僕の猫ではない。
捨て猫だという確証があれば、このまま僕が飼い主になってもいいけれど、おそらく隣に引っ越してきたのだから、飼い主は隣人なのだろう。
「なぁ、お前のご主人様はどこにいるんだ?」
問いかけると、猫は顔を上げ、僕に振り返って首を傾げた。
ふと、変なことを思いついて、そのまま口に出していた。
「まさか……。 お前1人で、隣に暮らしてるとか言わないよな?」
眉間に皺を寄せてそう言うと、猫は「にゃーー」と、いつもと違った低い声で長く鳴く。
僕は苦笑いするしてしまった。
なんだか、「そうだ」と言っているように聞こえてしまったのだ。
猫語なんて分からないはずなのに、何故かこの猫の返事を僕はずっと理解できているような気がしてしまう。
最初に会った時から、この猫の鳴き方が微妙に違うだけで、僕は自分の思うままに解釈して、この猫の返事だと思い込んできた。
それは、単なる自分勝手な思い込みでしかないはずなのに、変に心の中では間違いないと思っている自分に笑えてしまう。
まあ、どのみち、この猫が隣に一人暮らしをしているにしても、飼い主が居るにしても、医師に栄養失調気味だと言われて、このままこの猫を野放しにすることは僕に出来やしない。
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