隣人は猫で、僕の彼女。Full Ver.

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だけど、僕が隣人と鉢合わせする日は一向に訪れなかった。 3日過ぎ、5日過ぎ、1週間すぎても、引っ越しの挨拶もない。 でも猫は毎日、僕のベランダに来て、「にゃあ」と挨拶してくれた。 僕もつられて、「おはよう」「おやすみ」とその度に返す。 最初は警戒して、近付くと逃げてしまった猫だけど、僕がついつい手を出して、構っているうちに慣れてくれたのか、今では足に擦り寄って来てくれる。 僕は猫を抱き上げて、自分の顔に近づけた。 「お前のご主人様はもう帰ってきてるのか?」 猫は鳴かず、僕の頬を舐める。 その仕草が可愛くて、くすぐったくて、離したくなくなってしまった僕は、猫を腕の中に優しく抱きしめる。 毛並がふかふかして、暖かい。 このままこの猫を抱いて、隣部屋に自分から挨拶しに行ってしまうのも得策かもしれない。 「部屋に居ついてなかなか帰らないから連れてきました」など、適当なことを言えばいい。 時計は夜の21時を指していて、学生も社会人も自宅にだいたいは帰っている時間だろう。
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