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「よお、二連続十位サン。運命の日だゼ。結果はどーよ?」
緒方は誰もいなくなった教室で、黙々と日直に充てられた仕事である日誌を書いていた。遠く離れたグラウンドから運動部の声が少しばかり聞こえること以外、教室はとても静かで仕事のしやすい環境だった。
ところがそこに、荒々しい来訪者が来た。乱雑にドアを開き、履き潰された上履きで無遠慮に大きな音を響かせながら教室へ入り、緒方の座る席の前へと椅子を跨ぐ形で座った。緒方はその来訪者に一度ちらりと視線を向けるも、直ぐに自分の手元へと戻してしまう。その態度に来訪者は勿論不満の表情を見せ、緒方の右手からボールペンを奪った。
「魚クン。そんなつまんねー反応すんなよ。常々思ってるがお前には愛想やユニークさが全くと言っていい程ない。そりゃあいけないゼ魚クン。これからの世の中、コミュニケーション能力が大切なんだゼ?」
「お前、次魚クンっつったら刺すぞ」
「毎日生きてるのか死んでんのかわかんねーような面と、死んだ魚みたいな目してる緒方クンのあだ名には、魚クンがぴったりだと思うけどナ。……うお!」
魚クン、と来訪者である神谷が再び口にしたその瞬間。緒方の手は一切の無駄なく手近にあったシャープペンシルを握り込み、一度くるりと手の中でそれを回し神谷の顔面へと突き刺しにかかった。
目前にまで迫ったその武器を右側へ顔を逸らすことでなんとか避けた神谷は、突然身に迫った危機に驚きと恐怖で数秒身を固くする。が、緒方が机に乗り出していた体を引き、何事もなかったかのように武器にしたシャーペンを使って日誌を再び書き始めたことをきっかけに、神谷も椅子へしっかりと跨り直した。
今度は、立ち上がって逃げ出す足と心の準備も整えて。
「それで?俺の最初の質問はちゃんと聞いてたか?」
「勝手に聞こえた」
緒方はシャーペンを動かす右手を止めず、左手を机の中に突っ込み一つの青い封筒を取り出す。糊付けを雑に剥がされたその封筒から、神谷はくしゃくしゃにされた跡の残る紙を抜き取った。シワを伸ばすように広げ、特徴的なネコ目をすっと細める。
「はあ、まーたかよ。緒方は十位が好きだナ?」
「馬鹿野郎。俺が好きなのは一番だけだ」
「これで三連続だゼ。お前、そろそろ九位にくらいなっていーんじゃないの?」
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