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「何か用?」
「用がなくちゃ来てはいけないの?」
「何か用がないとアンタは来ないだろ」
「アンタって呼び方、他人行儀ね。いいのよ?お姉ちゃんって呼んでも」
その言葉に、ずっとパソコン画面を虚ろな目で見ていた彼は口を歪めた。
彼もまた、『宇都宮』だった。
姉である宇都宮蓮華と弟である宇都宮葵。彼ら姉弟は、学校では対象的双子姉弟として有名だった。姉は不眠症、黒い髪、辛い物が好き、国語が得意、社交的、几帳面。弟は過眠症、白い髪、甘い物が好き、数学が得意、非社交的、大雑把。共通点と言えば、不健康そうな真っ白な肌と優秀な学力くらいだと言われていた。
そんな宇都宮姉弟が会話らしい会話をしているところは誰も目撃したことがない。また本人達も意図的ではないものの、二人にとって『砕けた』と言っていい会話はこの教室か若しくは自宅でしかされていなかった。
「まあ、そういった家族らしい会話はまた後でにしましょう」
すっかり口を噤んでしまった葵に他に何か言うでもなく、蓮華はあっさりと「お姉ちゃん」呼びについての会話を打ち切った。
「先週緒方君が叫んでたわ。また十位だって」
「叫んでた?」
「嘘。叫んではいないけど。そうね、私の応接室に来て暫く不貞腐れて昼寝するくらいには、怒っていたしショックを受けていたわ」
「昼寝出来るくらいなんだからそれ程ダメージはないんでしょ。それで、いつも通り聞かれたんじゃないの?」
「いつも通り聞かれたわね。もうあの紙焼却炉で燃やしちゃった、って言ったわ。まさかそんなこと、信じていないでしょうけど」
「実際は?」
「ここ。家に置いて来るのを忘れてたわ」
鞄から取り出されたのは、水色の封筒。一度葵に見せるように封筒を持ち上げ、直ぐに机の上へと置いた。
「きっと『役員』に大きな変動はない。根拠は何もないけど。ただ、私たちが二年になって面白い噂が二つも広がり始めるなんて。どういう偶然とタイミングなのかしら?」
「噂?」
「葵も知ってる筈でしょう。私が聞いて知っているように、葵も見て知っている筈なんだから」
薄い唇で弧を描き、蓮華は机に置いた封筒をまた手に取ってそれを真っ二つに破った。葵はその破られた封筒を見た後、視線を二つの画面へと向ける。そこには二つの噂の渦中。二人の生徒が青白い光を帯びて映し出されていた。
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