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「どちらも興味があるけれど、特に私が興味あるのは黒髪の彼。そう、あの――」
「待て!」
楽しげに話していた蓮華の声が、突然遮られる。
遠くも近くも無い距離から、何かを引き止める声が聞こえた。ばたばたと足音が一つ、上から聞こえるのを確認した二人は意味もなく薄暗い教室の天井を見上げる。
何の物音もしなくなった数分後、じっと上を見上げていた蓮華が口元を制服の袖で隠して小さな笑い声を零す。あまりに珍しいその様子に、葵はクスクスと笑い続ける蓮華を訝しげに、でも興味深げに見ていた。
笑いをある程度治めた蓮華は、まだ緩む口元を気にしながらちらりと葵を見やる。
「上は丁度『生徒会執行委員の極秘窓口』ね。もしかして、彼が何かやらかしたのかしら」
「何でアンタ、そんな楽しそうなの?」
「え?どうして?」
「これはもしかしたら、俺達を脅かす『何か』かも知れないだろ」
「まあ、そうでしょう。そうだから、楽しいんでしょう?」
小さく首を傾げ、蓮華はやはり綺麗に華やかに笑う。
「今まで崩れなかった均衡が崩されるタイミングが、どうして今なんでしょうね」
「さあ。全く分かんない。ただ俺には、生徒会を目の敵にして今にもぶっ潰そうとしている緒方が、とんでもない疫病神に見えるよ」
「あら、緒方君は噂の子じゃないわよ?」
「白柳が怪しかろうが、天羽が怪しかろうが、俺にはその二人よりよっぽど緒方が怪しく見える。俺は一番、誰よりも、アイツを疑っている」
「珍しいわね、葵が自分からそんなにも誰かに注目するのは。でも良いことね。この学校では不用意に人を信用してはいけない。ダメよ?緒方君の妙な主人公気質に惹かれたら」
「それはアンタ自身に向けるべき言葉だろ」
薄暗い教室。ざわめき出す教室の外。慌ただしい足音がいくつも廊下を駆ける中、ふと葵は乱雑に床に放り投げた自分の鞄を見た。そこには適当に押し込まれた教材やプリント類が溢れ出ている。そこに、見覚えのある青い封筒。手を伸ばしてその封筒だけを抜き取ると、葵はどこか楽しげに椅子で遊ぶ蓮華を一瞥し、一気に封筒を真っ二つに破いた。
姉である蓮華の封筒と全く同じ状態となったそれを葵は再び鞄に押し込み、光を放つ六画面へと向き直る。
まだ、始まったばかりだ。
笑顔に慣れない葵の口元が、歪に形を変えた。
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