プロローグ

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「失礼しまーす……」 「遅いですよ」 「ひっ!」  第一棟校舎。全学年の教室や必要最低限の特別教室があるメイン校舎の一角。応接室と書かれたプレートのある教室に控え目のノックの後セキュリティカードを通し小声で挨拶をした耶奈へ、すぐさま鋭い声が飛んでくる。  そろりと床を見ていた視線を耶奈が上げると、曇り一つないメガネ越しに睨まれた。シワの全く見当たらない制服を一切の乱れなく着こなし、黒縁メガネをかけた男子生徒は何故か片手にピカピカのティーカップを持っている。その左腕には、耶奈と同じ風紀委員の腕章がされていた。 「時間はぴったりですが、五分前行動が基本でしょう」 「す、すみません」 「はあ、まあ、いいです。風紀委員としての仕事はこれからですから」  そう言うと、メガネをかけた男子生徒、安形は持っていたティーカップと机の上に置かれていた他の食器を手早く棚へ入れ、耶奈に数枚の資料を手渡した。耶奈はその資料を受け取りつつ、先程安形が棚へと直した食器類が気になりちらちらと視線を向ける。それに気づいた安形は「ああ」と何か納得し、耶奈にとって予想外にも面倒臭がらず怒りもせずに教えてくれた。 「あれは宇都宮さんの持ち物ですよ」 「宇都宮……?」 「私の一つ年下、貴方の一つ年上。二年の宇都宮蓮華さんです。彼女も風紀委員で、一応副委員長なんですよ」 「その……宇都宮先輩の持ち物が、何故ここに?風紀委員だからここに来られるっていうのは、わかるんですけど……。しかも、置いてる物が、食器なんて」  その上それは、かなりの量のものだった。ぱっと見るだけでもティーカップが何十個、お皿が何十枚、ティーポットが数個、その他食器類。どれも白く艶のある、食器の知識なんて皆無な耶奈にでさえ分かる程高級さが感じられる食器ばかりだ。  それが何故、一生徒の権限でこの応接室に置かれているのか。 それは彼女がこの応接室の使用権限をもぎ取ったからですよ」 「もぎ取った?」 「風紀委員は去年までただの空き教室を使って集会をしていました。ですが去年風紀委員に入った宇都宮さんはその待遇に不満を持ち、わざわざ理屈屁理屈を沢山書き連ねた願書を生徒会に出したんです」
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