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 それからは、代わり映えのない毎日がしばらく過ぎていた。 その日もいつもと変わらず、仕事から帰宅し靴を脱ぎかけた直後、チャイムがけたたましく連打された。 そして続いてドンッドンッドンッ 激しく叩かれるドアを見つめたまま固まってしまっていた。 すると再びドアが激しく叩かれる。 俺が小さな溜め息と共に仕方なくドアを開けると、そこには、あの日と同じ様に、涙を浮かべた彼女が立っていた。 チャイムが連打された瞬間、察しはついていた。また出たのか。 だが、俺の脳裏には、あの男の姿が即座にチラつき始めていた。 「あのっ!ゴキブリが…また退治してもらえないでしょうか?」 あの彼氏に頼めば良いだろ!? その言葉が喉まで出かかるが、落とした目線に小刻みに震える彼女の指を見ながら、そんな言葉を発する事が出来ない俺を俺自身が一番よく分かっていた。 「はぁ…」 そう言うのがやっとな俺がそのまま隣へと向かい始めると、彼女の表情が安堵に変わっていった。  片方のスリッパを片手に部屋の中を見渡す。あの日より少し散らかっている感じがした。 まぁ、越して来てから日もだいぶ経ったからな。  白い本棚の横には段ボール箱が2つ積まれていた。その天井近くに、今回はすぐに発見できた。 俺は、咄嗟に積まれた段ボールに飛び乗り、一撃を放った。 よしっ! そう思った矢先、段ボールがバコッと変形し、それと一緒に豪快に倒れてしまった。 段ボールの中身が散乱する。 あたふたと慌てて、かき集める。 格好悪いよな…つくづく… ひっくり返った段ボールに、手にかき集めた大量の封筒を戻す。 実に様々な封筒。段ボールの中に残っていた分や1段目の段ボールの中も同じなら、相当な数だろう。 何だ?今時、ラブレターとか? だが、見ようとした訳では無かったが、目に付いてしまった封筒に書かれた宛先に俺は釘付けになった。 この様々な大量の封筒の宛先全てが、住所は大手出版社、そして宛名は“夜闘 夢”
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