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 名刺は先程の大量の手紙の宛先になっていた大手出版社のものだった。 「彼女の担当をしています。そして…兄です」 !!!兄?思わず顔を上げ男を見てしまい、すぐ名刺を手に取ってみると、葛西 雅司 と書かれていた。 「はぁ…」間抜けな声を発した。 全身の力が抜けていくような感覚だったが、心臓は相変わらず踊っていた。 平静を装おうと頑張ったが、顔が少しニヤケてしまったのが自分でも分かっていた。  「妹はゴキブリが異常なまでに嫌いで、ここに引っ越すと言った時も、裏の林の向こう側に飲食店が並んでいたので、心配はしていたんですよ。」 彼はニコニコしながら話していた。 「佐藤さん、妹の大ファンだそうで、有り難うございます。あ…ゴキブリ退治も。」 「はぁ…」 「それで、お世話になってる佐藤さんに、一つお願いというか、約束して頂きたい事がありまして」 その内容は察しが付いた。 「夜闘 夢の素性については、何卒内密に願いたい。…勿論、貴方のお仲間が集まる掲示板では、一切、妹には触れないで欲しい。」 予想通りだった。彼女に話した掲示板の事も聞いていたのか。 「分かりました」 俺はそう答えたが、大ファンの夜闘 夢の素性を俺だけが知っていて、しかも隣に住んでて、今、その部屋に一緒に居る。 興奮が込み上げる。 ニヤケてしまいそうな顔を見られないよう、うつむく俺に彼は1人話しを明るく続けた。 「有り難う!貴方なら、きっと約束は守って下さると信じてますよ」 何の根拠があるんだ。俺の事など彼女から聞いただけしか知らないくせに。調子の良い奴だな。 とは言え、俺は誰かに言う事も掲示板で今後、隣人の彼女について書く事もしないが。
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