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あれから、何度か廊下で葛西 彰子さんとは会ったが、お互い小さな声で挨拶しながらすれ違うだけだった。
掲示板は、にわかに賑わっていた。
近い内に、夜闘 夢の新作が出版されるという情報が出たからだ。
滅多に書き込んで来ない人も、お初の人も加わり、その賑わいは俺にとっては、楽しくもあったが、いつものアキラや数人だけでバカ話しに笑ってる穏やかな日々に早く戻って欲しいという思いもあったりする。
掲示板には色々な人の夜闘 夢に対する、あるいは作品に関する書き込みが次々と書き込まれた。
新作は、「異風の彼方」というらしい事、一週間後に発売開始となるという情報も得られた。
俺と同じように、楽しみに待つ書き込みを眺めながら一服していると、俺の部屋のチャイムが連続で鳴らされた。
何だ?こんな時間に…
俺の部屋を訪れるような友人は居ないし、訝しげに立ち上がった時、再びチャイムが連チャンで鳴って、更にドアを激しく叩かれた。
ただ事ではない雰囲気に、不安を感じながら、「はいっ」とドアに向かって返事をしてみたが、何も返って来ない。
そっと、ドアを開けると、隣の葛西 彰子が立っていた。
葛西 彰子は背が低く華奢で色白でセミロングの黒髪だった。
何度かすれ違う内に、ブスではないどころか、可愛い事には気がついていたが、物静かな雰囲気は、第一印象のまま変わらなかった。
俺は彼女を見下ろす形になるが、彼女は俺を ほぼ真上を見上げる形になる。
俺を見上げた彼女は、目に涙を浮かべ、今にも泣きそうな顔だった。
俺は訳が分からないのと、不安と緊張だかが押し寄せる中、どうにか「何ですか?」と愛想も何も無い言葉を発していた。
彼女は切羽詰まったような、動揺しているような顔で、手が僅かに震えていた。
一体…何があったんだ!?
この状況に目を反らす事を忘れて、彼女の泣きそうな顔を見下ろしていた俺に、彼女は一瞬、戸惑うように顔を伏せたが、すぐ俺を見上げ、意を決したように小さな声で話し始めた。
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