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 手で涙を拭うと、少し安堵した様な表情で自分の部屋へと俺を連れて戻った。 「お邪魔します」と言いながら靴を脱ぎ部屋へと入る。 彼女がスリッパを渡した。が、片方だけ。 つまり、「履いて下さい」というのでは無く、「これで退治してくれ」というスリッパだ。 間取りは俺の部屋と同じだが、スッキリと片付けられた綺麗な部屋だった。 1人暮らしの女性の部屋へ入るなんて始めてだな…と思ったら急に恥ずかしさが込み上げて来た。 早く退治して帰らねば! 「どこらで見たんですか?」と彼女を見もせず部屋の中を見渡しながら訪ねる。まぁ、見た場所にヤツが留まってるハズは無いのだが。 「あの本棚の上の壁に…」と彼女が指差した壁には、やはり見当たらない。 白い本棚にはビッシリと本が入っていてた。 俺は「あっ」と思わず声を出した。 その声に彼女がビクッとした。 ゴキブリを見つけたと思ったのだろう。 俺が思わず声を出してしまったのは、本棚の中に、非常に良く見慣れた背表紙がキッチリ並んでいるのが見えたからだ。 そう、それは俺の部屋の本棚にも並んでいる、夜闘 夢の小説だった。彼女も夜闘 夢のファンなのだろうか? 聞いてみたかったが、今の彼女はそれどころでは無い雰囲気だったので、とりあえず、ゴキブリ発見を先決させる事にしたのだった。 暫く探していたが、俺の目の端に映る壁に何か気配を感じたのと同時に、彼女の「キィヤァァァ~ッ」という耳をつんざく悲鳴が響いた。
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