指輪の刻印

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私の事実上の婚約者で、だけど私の潜在意識では元は敵だった訳で、どこまで心を開いていいものか複雑な気分だった。 しかも寧史よりはるかにとっつきにくい完璧エリート。 何を喋ればいいのか分からず、リラックスしようと思ってもつい肩に力が入る。 食事をした時は彼のそつのないリードで会話が途切れることはなかったのに、今日は運転中のせいか彼も無口だ。 この曲名を聞いてみようか? ……やめておこう。 あまり洋楽に詳しくないし、話題が続きそうにない。 仕事の話でも振ってみようか? ……ダメだ。 寧史のことをうっかり喋って、墓穴を掘りそうだ。 「そんなに緊張しなくても、いきなり取って食べたりしませんよ」 隣でハンドルを握る黒木の声が可笑しそうに揺れた。 私の緊張は駄々漏れらしい。 でも“いきなりではない”部分否定にいつか迎える時を連想してしまい、余計に緊張のさざ波が広がっていく。
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