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「あの…」
脳内に広がる変な連想を止めようと苦し紛れに口を開く。
黒木は黙ったまま耳を傾けるように、前方に視線を据えたままわずかに顔をこちらに向けた。
「車、素敵ですね」
彼の横顔に注意を奪われたせいで何も考えず口にした瞬間、激しく後悔した。
持ち物を誉めるなんて、いかにも物欲しげに聞こえるじゃないの。
でも黒木は特に不快感も見せず、さらりと答えた。
「ああ…友人がディーラーなので、全て任せてるんです」
「そうなんですか」
「だから彼にとって僕はいいカモってところですね」
黒木は軽く冗談で流したけれど、おそらくオプショナル仕様の内装で、しかも外国車。
車に詳しくない私でも、かなりの値段だろうと容易に想像がつく。
「あまりこだわりはないですよ。どれも似たようなものでしょうから、頑丈で故障がなければ」
でも車好きという訳ではないらしい。
何事にも余裕綽々の黒木らしいと納得しながら、どことなく冷たさを感じさせる台詞が結婚相手も揶揄しているようで、少し肌寒く感じた。
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