指輪の刻印

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「……寒くないですか?」 「はい」 無意識に私は身震いしてしまったのか、黒木が声をかけてきた。 「エアコンはこのパネルで自由に調節してください」 画面を指す腕の動きで、ふわりと仄かに黒木の香りが漂った。 何の香りだろう? グリーンティーみたいな爽やかさの中に、すこし甘さが混じる。 寧史はもう少し主張の強い香りをつけていた。 頭では寧史を憎もうとしながら、彼を思うだけで今だに香りまで感じられるぐらい、私は寧史に染まっていた。 鼻腔から寧史を追い出そうとフンフン息をしていると、少しして黒木が尋ねてきた。 「瀧沢さん、運転は?」 「ぺっ…、ペーパーです」 寧史のことを考えていた後ろめたさで声が裏返った。
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