指輪の刻印

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「いつから?」 「えーと…学生の時からです…」 「それから一度も?」 「はい…」 なぜこんなことを聞かれるのか分からないけれど、何となく役立たずな気がして小さくなる。 大学時代に取ったけれど、取得後すぐに父の車をぶつけてからペーパーに…なんて理由は黒木には興味もないだろうから言わずにおく。 「そうですか…」 ここまで無能な女とは思っていなかったのか、黒木は少し考え込むように口をつぐんだ。 だって今は駅が近いし。 車なんて維持費かかるし。 寧史がどこでも連れていってくれたから、必要なんてなかったし。 言い訳を腹の中でぶつぶつ呟いていると、彼が口を開いた。 「気が早いですが、結婚後、いずれ海外赴任があるはずです。プラント周辺は車がないと生活できない地域なんですよ」 言い訳を引っ込めてさらに小さくなる。
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