素肌を彼に預ければ

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「どう?」 無言のマネキン状態が寂しくなってきて身体を捩って黒木を見上げると、彼はすぐに気づいて少し顔を寄せ、小さな声で聞いてきた。 かすかに息がかかる少し親密な距離に胸がふわっとするのを感じながら、にっこり笑って頷いてみせる。 「いかがでしょう?」 私たちの反応を見てすかさずアドバイザーがたたみかけてきた。 でも、黒木を待たせたくはないけれど何しろまだ試着は一着目。 しかもこれは最初に妊婦の西野円香に対抗して意地で決めたデザインだった。 「あの…他のデザインも着てみていいですか?」 「もちろんですよ。たくさんお召しになってみてください」 ホッとして周囲を見回すと、ふんわりと膨らんだ一般的なデザインも試してみたくなった。 できるなら黒木に綺麗だと思ってもらいたい。 できるなら黒木に喜んでもらいたい。 私にそんな資格はないかもしれないけれど、黒木と自分のために、この結婚を本物にしたいと望んでいいだろうか。 希望と欲が湧いてきて、それからは羞恥心を捨てて意欲的に何着か試着してみた。
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