二人の温度

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でも私の目が探すのは専務室などではなく、黒木の姿だ。 左手奥、左手奥………。 昼食後すぐはビジネスランチからまだ戻ってきていないことが多いという美和情報に従い、わざわざ高確率だという時間帯まで待ってから来たのだけど……。 いた……! 彼を見つけた瞬間、心臓が口から飛び出たのではないかと思った。 刺激が強すぎて、いったん進行通路に視線を戻す。 ひとりでに顔がほころんでしまうので、封書を抱き締め我慢する。 幅のある肩の青いシャツと眼鏡をかけた横顔は、似たような出で立ちの人々の中で私には際立って見えた。 近くに寧史がいたかどうかなんてまったく分からないし、そんなこと今はどうでもいい。
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