二人の温度

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「さっきから何キョロキョロしてんの、里英」 「……別に」 翌週の半ば、私が社員食堂で首を伸ばして人混みを見渡していると、横から美和が突っ込んできた。 たまに黒木が社員食堂を利用すると知ってからは会えるんじゃないかとつい期待して、私は無意識にキョロキョロしているらしい。 「誰を探してるのかなぁー?」 美和がニタニタしながらいつも通り低カロリー定食の列に並んだ。 黒木に言われた通り「ぽっちゃりめ」の美和は年中ダイエットに励んでいるのだ。 「だって……ひょっとしたら会えるかなって思っちゃうじゃん!」 美和に笑われて、むくれた私は口を尖らせた。 あれから社員食堂に来る時は私がやたらに身だしなみに気をつけるようになったので、美和にしょっちゅうからかわれている。 「痩せ我慢してないでさぁ、見に行けばいいじゃん」 「だって用事がないんだもん。ただ見に行くだけじゃバカみたいだし、迷惑でしょ」 黒木が居ない食堂を見渡してため息をついた。 彼が“宿敵”だった頃は願わずとも度々ロビーや廊下ですれ違っていた気がするのに、こうして会いたいと願うとうまくいかない。
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