二人の温度

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「用事がないなら作れば?」 それは私だって考えた。 けれど、伝票や決裁書のやり取りは総務を経由する社内便で届けるのが常で、私たちが他部門に赴くチャンスは滅多にないのだ。 「何かないかなぁ……」 「あ、昼前にさ、エネ本宛の社内便出したよ。まだボックスに残ってたら、それ届けに行けば?」 「でも社内便扱いの文書でしょ?わざわざ持っていったら変じゃないかな」 「いや。本当は届けるか微妙だったけど、嫌だったから社内便ボックスに入れたんだ」 「嫌?珍しいね、美和なのに」 営業のイケメン男子を鑑賞するのが趣味の美和は、何かと理由をつけては営業部に行く。 私の担当文書までかっさらって行くので、今まで私がエネ本に行くに行けなかったのは寧史のせいばかりではない。 「だって西野専務宛なんだもん」 西野と聞いてトレーを持つ私の手がビクッと揺れてお味噌汁がこぼれたけれど、美和は気づいていないようで話を続けながら空席に腰を下ろした。
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