二人の温度

9/32
前へ
/32ページ
次へ
ゆっくり歩いたのに、北側入口にはすぐに着いてしまった。 銀色のプレートにある「環境エネルギー本部」の文字を仰いでゴクリと唾を飲み込むと、思いきって足を踏み入れた。 大部屋は経理本部よりはるかに広く、一瞬圧倒された。 話し声、電話の音、慌ただしく席から席へ移動する人の姿。 あまり他人と関わることなく自席で黙々と仕事に集中する経理部の雰囲気と違って、営業の大部屋は音と動きに満ちている。 それにしても、一体どこに何があるのか、さっぱり分からない。 「あの……西野専務のお席はどちらでしょうか?」 迷子のようにさ迷う無様な姿を黒木に見られたくないから、仕方なく一番入口に近い席の女性に声をかけた。 「専務室はあちら左手奥に見えているドアですよ。今は在室されていると思います」 彼女は質問されることに慣れているらしく、にこやかに分かりやすく答えてくれた。 シンプルな白いシャツがかえってお洒落で、緊張で余裕のない私には少し眩しい。 「ありがとうございます」 専務室も左。 彼女に礼を言うと、左側へと進み始めた。
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3004人が本棚に入れています
本棚に追加