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「こんなところで偶然だな」
寧史は驚愕を隠せずまだ棒立ちになったままだったけれど、黒木の声でさっと顔に血が上ったのが分かった。
こんな形で寧史に伝わるとは。
どこからどう見ても、私と黒木が結婚予定なのは分かっただろう。
あまりの状況に呆然としていると、寧史は怒りをあらわにした視線を私に向けてきた。
こんなに露骨に反応していては黒木に怪しまれてしまうのに。
必死で表情を繕うけれど、寧史が何かを言い出すのではないかという恐怖で、寧史の顔をまともに見ることができない。
「……黒木」
ようやく口を開いた寧史の声はひどくしわがれていた。
お願い、何も言わないで……。
心の中で懇願しながら目を瞑る。
「黒木も結婚するんだ?へえ、全然知らなかったな」
けれど寧史もさすがにそこまで軽率ではないようで、無理して笑ったような妙に明るい声が聞こえた。
余裕を装うのは西野円香の前だからだろうけれど、彼の声には黒木に対する剥き出しのプライドが滲んでいた。
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