彼の秘密

16/26
前へ
/26ページ
次へ
「仕事の取引でもそうだ。あいつは誠実そうな顔でぎりぎりまで気を持たせて、一番有利な相手を見極めると残酷なタイミングで他を切り捨てる」 「一番残酷なタイミングで切り捨てたのは寧史じゃない!一緒にしないで!」 もう金切り声だった。 「里英はあいつのことを何も知らないだろ」 「知ってる!」 知らないかもしれないけど、知ってる。 もう理屈じゃない。 悲痛な願いだった。 「今になって何よ」 「前にも止めただろ。それに俺だって二日前に知ったんだ、里英の婚約も黒木の取引も」 「寧史の言うことなんて信じられない」 涙を見せたら負けだ。 「何を言われても、私は絶対に彼を信じてる」 強がりを吐き捨てて、くるりと背中を向けた私に、彼の言葉が刺さった。 「まだある。これでも黒木を信じるか?」
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2825人が本棚に入れています
本棚に追加