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聞いてはいけないと分かっているのに、どうして足を止めてしまうのだろう?
「俺が円香に近づいたのは、円香を好きだった訳じゃない」
「それが何の関係があるの?」
突如出てきた不愉快な話題に呆れ返って天を仰ぐ。
憤死、というものがあるなら、今がそんな気分かもしれない。
「そんな汚ならしい話、一人で喋ってたらいいよ。興味ない!」
怒りのあまり狂いそうになりながらまた背中を向け、出口に向かって踏み出した。
「円香に近づいたのは、黒木の昇進を邪魔したかったからだ」
「なんでそこに彼が……」
背中を追うように飛んできた彼の声に足を止め、言い返しかけて、みるみるうちに青ざめた。
二日前の遭遇の場面が甦る。
「あいつも里英と同じだよ」
「言わなくていい……!」
耳を塞いで叫んだけれど、もう気づいてしまった私にはあまり意味はなかった。
「嫌だ、言わないで!」
「黒木と円香は恋人同士だ。
俺が邪魔した」
悲鳴のような声に寧史の声が重なった。
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