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時折感じていた冷たい表情は、婚約の茶番への本音だったのか。
専務室に一緒に入ってくれたのは私を守るためではなく、専務との駆け引きだったのだろうか。
遭遇の日の夜、彼のキスが荒々しかったのは、西野円香と寧史への嫉妬だったのだろうか。
“順序は守った方がいい”
“こんな場所でごめんね”
私を抱いてくれないのは、本当はまだ彼女を愛しているから……?
何もかもが疑念の渦の中で灰色に見えて、心がもがき苦しんだ。
お守りにすがるように彼が作ってくれたハートのキーホルダーを眺め、そしてバッグから携帯を取り出した。
ドレス姿の私を抱き寄せる彼の笑顔をひたすら眺め続ける。
信じたい。信じたい。
だけどあの時黒木が西野円香に放った強烈な挨拶を思い出した。
“はじめまして”
事も無げに言い放ったその冷淡さがかえって彼の西野円香への感情の深さを示している気がして、苦しさのあまり顔が歪んだ。
その時、手の中の携帯が着信を知らせた。
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