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「父が勝手にやったことだから、理由なんて知らないわ。とにかく彼は取引に応じたのよ」
彼女は攻勢のはずなのになぜか落ち着きなく、冷めてしまったホットミルクを忙しなくかき混ぜた。
「でなきゃ、彼ほどの人がお見合いなんかする訳ないでしょう?」
上ずった感情的な声で西野円香が笑った時、気づいた。
彼女も苦しいのだ。
寧史が言うように、彼女は黒木を失いたくなかったのだろうか。
でもそれなら尚更、後には引けなかった。
「私は取引でも構いません」
私だって苦しい。
黒木と恋愛関係にあった彼女と比べて、婚約者でありながら黒木に愛されている根拠がない私の立場は脆かった。
だから少しでも彼が私を選んだ必然を求めて、苦し紛れに知らなくていいことを探ってしまうのだ。
「どうして黒木主任と結婚しなかったんですか?」
彼女が他の男を求めた理由が、寧史が言うような“暇だから”という単純なものとはどうしても思えない。
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