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「……そうですか」
プライドが邪魔して平然と答えてしまってから、不自然だったかなと後悔していると、私が期待通りの反応を見せないので彼女が眉をひそめた。
「知ってたの?寧史が言ったんでしょう?」
「いいえ」
「じゃあ、黒木が?」
一瞬、彼女の目に期待がこもったような気がして、意地で即答した。
「いいえ、まったく初耳です」
“初耳”は嫌味のつもりだ。
嫌味というよりは願望かもしれない。
黒木にとって、彼女は語るほどにない過去の存在でありますように。
彼女がふと漏らした、“黒木”という少し距離のある呼び方に願いをかけた。
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