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“何も持たないから”
辻褄が合うその理由は私の痛い所を突いた。
私が寧史を悔しがらせるためにライバルの黒木を選んだように、彼もまた彼女を悔しがらせるために正反対の私を選んだということだろうか。
因果応報とはこのことだ。
応戦するのも忘れて黙りこんでいると、同じように口をつぐんでしまった西野円香が独り言のように呟くのが聞こえた。
「……皮肉よね。寧史は私の持ち物に目がくらんだのに」
彼女の顔に浮かんだのは孤独だろうか。
けれど私の視線に気づくと、彼女は一瞬でその表情を引っ込めた。
「とにかく彼は不要なものは容赦なく切り捨てるわよ。あなたと寧史のことを知ったらどうするでしょうね」
捨て台詞を吐くと、彼女は立ち上がった。
「でも安心して。私は告げ口するつもりないから」
どうせ私が寧史に走ると困るからだろう。
彼女が伝票を取って歩き出したのを見て、私も負けじと立ち上がる。
たとえ一円でも世話になりたくない。
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