第9話 奪う女と奪われた女

奪う女と奪われた女

寧史と話をした日から数日が過ぎた。

黒木はあの後、無事に着いたことを知らせる短いメールをくれて、翌日の夜に再び電話をかけてきてくれた。

前の日はお風呂に入っていて電話に出られなかったという言い訳を用意していたけれど、その必要もないぐらい、彼は気を悪くした風もなく朗らかだった。

私もその時には平静を装うぐらいの落ち着きは取り戻していたから、たぶん普通に会話できていたと思う。

でも、彼の声を聞いている最中だけは不安を忘れられたけれど、切った途端にまた私は元に戻ってしまう。

この優しさも演技だとしたら？
帰って来たら辞令が出るのでは？
そうしたら……。

寧史の言葉で受けた打撃は表面上は薄れながら、深いところで二次感染のようにじわじわと私を侵食していて、私は黒木の帰国が待ち遠しいのか怖いのか、よく分からなくなっていた。

そんな中、私が出した招待状の返事が戻り始めるのと同時に、社内の廊下や食堂でちらちらと視線を感じるようになった。