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いつも混んでいるカフェは、今日に限って人がまばらだった。
会社近くだから、誰かに見られたり話を聞かれることを避けたのだろう。
彼女は居心地の良さそうな窓際の席ではなく、奥まっていて声の響きにくそうな席を選んだ。
受け身の私には余計に心細い。
「ホットミルクを」
店員がオーダーを取りに来ると、彼女はメニューを見ることなく即座に告げた。
「……私はアッサムを。ミルクでお願いします」
何となく焦って私もメニューを見ず適当に紅茶を頼むと、できるだけ時間をかけておしぼりで手を拭いた。
その間も彼女の視線を感じて、うつむいた顔に冷や汗が滲んでくる。
きっと私の値踏みでもしているに違いない。
さっき彼女がホットミルクと告げてから私をチラリと見たのは、一種の当て擦りのつもりだろうか?
毒々しい事態に追い詰められたせいか、そんな穿った邪推まで浮かんでくる。
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