空白の時間

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同じ課で同期で、しかもこの時にはすでに「義父」になっている専務も出席するのに……。 不思議に思いながらも正直ホッとして、深く考えるのをやめた私はまず上座から入力にかかった。 “西野”と入力すると、予測変換のプルダウンメニューで次のワードの候補が出てくる。 さすがに所属部門のトップだけに入力頻度が高いのか、“専務”が筆頭だった。 席次表はフルネーム表記なのでそれを無視して下の名前を入力しようとした私の手が、ふと止まった。 彼の言う通り、確かにパソコンはクリーンに違いない。 けれどいくら黒木が完璧でも、どこかに過去を示す綻びはあるものだ。 “本部長”に続くプルダウンメニューの三番目は、“円香”の二文字だった。 彼らからあの話を聞かなければ、こんなかすかな名残は、本当なら気づかないはずのものだっただろう。
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