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のぼせた気分が冷水を浴びせられたように沈んでいくのを感じながら、その二文字を眺めた。
彼らに投げつけられた話はただの悪夢だと忘れようとしていたのに、現実を見ろと頬を叩かれた気分だった。
しばらくしてプルダウンメニューを閉じた私の指は、やめておけばいいのに“M”を入力して、次の“A”を打とうとして止まった。
一体私は何を知ろうとしているのだろう。
最初の一文字だけで彼女の名前が出て来るのか、黒木が彼女をどれだけ愛していたのか、それで量ろうとでもいうのだろうか。
恋の嫉妬は私を醜く愚かにする。
一つ知ればもう一つ、もう一つと、知れば知るほど不安に揺らされて、底無し沼のように終わりがない。
本当の幸せは、過去を探って得られるものではないのに。
これは昔のパソコンなんだから。
過去なんだから……。
「コーヒー入ったよ」
キッチンから出てきた彼の声で不毛な葛藤から我に返り、笑顔で応えながら手元の文字をそっと消した。
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