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突然、自分でも訳が分からぬまま、気づけば私は彼の肩を押し退けていた。
「……」
驚いた表情の彼を、私も茫然と見上げる。
自分のしたことが信じられなかった。
押し潰されそうな静寂が部屋に立ち込める。
二人の間にできたわずかな空間が、まるで大きな隔たりのように遠く感じられた。
「あ……あの……」
もう一度その距離を埋めようと手を伸ばしかけた時、いつもの表情を取り戻した彼が微笑みを浮かべて身体を起こした。
「……送っていかないとね」
こんなに彼を求めているのに、なぜ私は自滅的な葛藤にとらわれて彼を拒んでしまったのだろう?
後悔しても、もう遅かった。
立ち上がり部屋を出ていく彼の背中は、まるでそれ以上の会話を拒んでいるように見えた。
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