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エントランスに走りこむと、あいにくエレベーターは二基とも上昇中だった。
エレベーターを待つ間、この小一時間、西野円香からの電話以外は沈黙している携帯を眺めた。
今さらながら、電源を切っていたことが悔やまれる。
今、彼はどこにいるのだろう?
まだ仕事中?
それとも、私のアパート?
“怒鳴り散らされて、叩き切られたわ”
焦って彼の番号を押しかけて、ふと指を止めて考え込んだ。
私がこの騒ぎに巻き込まれていないことにしないと、お互いに望まない過去語りになって、これまでの彼の努力を水の泡にしてしまうだろう。
でも“無事”を知らせないと。
だんだんと降りてくる電光表示を見ながら一人で唸る。
“お仕事終わりましたか?”って何も知らない風にあっけらかんと電話してみようか。
「演技力に自信がない……」
まずは台本をと頭の中でシミュレーションしている間にエレベーターが到着したので、とりあえずは荷物を置こうと十二階に向かった。
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