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マンションの外廊下は斜めの西陽を受けてオレンジ色に染まっていた。
急ぐあまり脚にもつれる買い物袋を勢いよく蹴ってしまい、中の玉子が心配になる。
「割れちゃったかな……」
袋を覗きこみながら廊下を急ぐと、目指す彼の部屋のドアになぜか鍵がぶら下がっているのが見えた。
そういえば、出る時は勢いで飛び出したっけ……。
途端に血の気が引いていく。
まさか私、施錠したまま鍵忘れ?
自分の家ならまだしも、彼の家なのに!
自分の粗忽さに大泣きしたくなりながら走って近づくと、それは私のハート型ではなく、身に覚えのある歪んだ刻印で彼の名前が入った、あのキーホルダーだった。
キーホルダーはまだわずかにゆらゆらと揺れている。
彼が帰ってきたんだ!
頭の中の作りかけの台本も忘れ、喜び勇んで玄関に飛び込んだ私は、ほぼ同時にリビングから飛び出してきた人物のすごい勢いにびっくりして思わず小さく悲鳴を上げた。
「きゃっ……」
「……里英」
切羽詰まった声にぎゅっと瞑った目を開ける。
……こんな彼、見たことがない。
目の前の彼の様子に、ただただ目を見張った。
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