別れた女

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休日、いつもの飲み屋で飲んで店を出たら、少し前に別れた女とあった。 「久しぶり、元気だった?」 彼女から声を掛けてきた。 「うん。そっちは?」 「そうでもない。でも離婚したよ」 「そうか、大丈夫なの?」 「うん、なんとかね。またいつ会えるか分からないから、少し話してもいい?」 「いいよ。でもまたここで会えるよ」 「そう?でも私は振られたのよ、仁君に」 「……」 「私ね、転職して離婚してクタクタよ」 「後悔してるの?」 「自分で決めた事だから後悔はしないよ」 別れ際に 「またね」 「なんで?仁君は振った人にそんな事が言えるの?私達、友達になれそう?」 「もう少しかな」 「変なの」 彼女、井光 今日(いかり きょう)が言った。 「私、そこのアパートに引っ越したの。マンション側の端の部屋だからお隣さんね」 「…………」 「じゃあね」 今日とは付き合っていたような、 いないような関係で お互いに惹かれていた時もあったが 何にもない関係。 彼女は結婚していたからか、 誘ってもはぐらかされて、 俺は詰まらなくなって振ったんだ。 いや、今日が家庭を旦那を選んで、俺の方が捨てられるのが怖かった。 若いときに人妻に本気になって、呆気なく捨てられた苦い経験がトラウマになっていた。 それが俺のプライドを傷付けた。 だから先に振ったんだ。 今日が離婚して隣に引っ越して来たことに 背筋がゾッと…は、しなかった。 なんだか嬉しいと感じてしまった。 いかん、いかん。 俺の理想は若い妻と子供がいる家庭なんだ。 今日は俺が勉強や仕事で犠牲にした若いときには出来なかった恋愛を ピュアな恋愛を体験させてくれる存在。 今日はあの飲み屋に行くために近くに越してきたんだ。 そういう人だと知っていた。 俺にもう勘違いさせないでくれ。
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