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休日の朝、私は愛車を磨きにマンションの正面玄関から駐車場にいこうと出た時に隣のアパートの小さな庭にあのレジの彼女がいた。
驚いて見ていると彼女が気付いてこっちを見た。私は急いで目をそらした。
「あら?お客さん?」
と彼女が話し掛けてきた。
私は業とらしくキョロキョロして見せてから今気づいたように
「あ、」
「このマンションに住んでるんですか?」
「はい」
「私は先週ここに引っ越して来たんですよ。あそこの会社の人はこちらのマンションに住んでいる方が多いいんですか?」
「いや、知り合いや顔見知りに会ったことがないから、うちだけだと思いますよ」
「良かった。こんなに早くから何してるんですか?」
「早く目が覚めたのでバイクを磨こうかと出てきたところです」
「相変わらず、バイク好きなんですね」
「相変わらず?」
「笹林君、笹林さんですか?」
「そう、です」
「覚えてないよね、私の事?今日ちゃんって呼ばれていたんだけど」
「……今日ちゃん?あの今日ちゃんかぁ」
と今思い出したように言ってみた。
「そう。年を取りすぎたから、忘れていたよね?」
「でもなんとなく、分かるような分からないような」
私は分かっていたが分からないような素振りをした。彼女の屈託がない笑顔は年を取っても変わっていなかった。
「笹林さんは変わってないですよ、直ぐに分かったから」
「いや、年を取ったよ」
彼女が私を覚えていてくれたことが嬉しかった。にやけそうになるのを必死に耐えた。
確か、最後に彼女は私を無視して避けていたと思うが……。
理由は私が彼女の友達を振ってしまったからだった。
若気の至りだ。
その時、
私は彼女に失恋したんだ。
彼女は私の気持ちに気付いてもいなかった。
その事を彼女は知らないのか、私の気持ちに気付いてなかったのか?
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