井光 習(いかり しゅう)

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就職がやっと決まった。 クリエーターの夢が叶った。 そして、両親が離婚した。 23才、フリーターの俺の就職が決まったら離婚すると決まっていたらしい。 母さんが言った。 「貴方は、オヤジと仲が悪いから私と一緒に出ていくでしょ?私の収入じゃあ心配だから面倒をみてね」 「それはいいよ。でも育は?学生のあいつはどうする?」 「育は卒業まで後1年あるからオヤジと一緒にここにいてもらうわ、貴方ほどオヤジとは仲が悪くないし、オヤジの方が私より収入があるから育も安心でしょ。私達の引っ越し先はここから遠くないし駅からも近いから育も遊びに来やすいわよ」 あんな非情なオヤジとは別れて正解だと思うが、仲の悪い両親の離婚でも何となく寂しいような、呆気ないような気持ちになる。 大学受験に失敗し、クリエーターの道へ進もうと専門学校に2年、卒業はしたけれど夢への拘りが過ぎ、就職浪人が丸2年。やっとここならばと言う会社に就職が決まった。 やりたいことを好きにやらせてくれたんだから、これから少し母さん孝行をしなければと思っている。 俺と母さんは母さんの親が半分お金を援助してくれた一軒家から出た。 今度の新しいうちは駅近で便利だったが、 隣のデカイ、 いかにも高級そうなマンションのせいで 日陰になっている。 見た目は今時な1階と2階のあるアパートだった。 「母さん、ここの日照時間はどれくらいかな?」 「そうね(笑)。でも、私達、仕事でほとんど昼間はいないでしょ。駅近で今風の1階2階のアパートでも家賃が少し安くなっているのよ。お隣のマンションのお陰でね」 「今日飲みに行くから、ここに泊まりに来てもいい?」 引っ越しの手伝いに来た弟の育が荷物を運び入ってきた。 「早速かよ」 「いいよ、育。いつでもおいで貴方の鍵も作ったから、はい」 母さんは鍵を俺達に渡した。
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