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小高こだかい丘の上。
静かに夜風が抜けていた。
空が黒い。浮かんだ白い月が、その中で強い存在感を示している。
周りの空気も、日常とは違う。どこか張りつめたような、掴つかめないような、そんな不思議な雰囲気だ。
遠くに見える街の灯ひの中にある、光るカボチャのランタンが、軒並のきなみ列を成なして怪しい光を放っている。
「……ここは?」
「ロンドンですニャ。ほら、あそこに」
指さした先には、大きな時計台――ビックベンが佇たたずんでいた。
「へえ、あれが」
「じゃあ、まずは下に降りますニャ」
ナハトは街を背にして歩き、草の避よけた道へと入る。
零次が後に続いた時には、その姿は闇に溶けて見えなくなっていた。
降り立った先にある、ビックベンにつながる橋の前には10人ほどが待機たいきしているところだった。
「皆様、中井様をお連れしましたニャ」
ナハトが呼びかけると、全員が一斉に零次を見る。
小さい子供から中年の男まで、幅広い年代構成だ。
トリップは、毎回こんな感じだったのだろうか。
「もう一人、連れてきますので、しばらくお待ちになって下さいニャ」
「ああ、わかった」
零次は背後に広がる街を眺めると、感嘆したような、落ち着かないような溜息ためいきをついた。え
「さあ、どうぞこちらに…」
ナハトの後ろには、長い黒髪に淡い色のワンピースを着た、おっとりとした感じの女がいた。
声といい動きと言い、零次の時とは態度が違う。
差別しているのだろうかと、零次は疑惑の目でナハトを見る。
「……ニャンですか中井様、その視線」
ナハトも怪訝けげんな顔を返す。
「別に、妬やいてるとかそんなんじゃない」
あくまで零次は冷静に答えた。猫に余計な感情を出す隙すらない。
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