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気が付くと、零次は一人広い草原に取り残されていた。
短い草を撫でるように、そよ風がよこたわった零次の横を通り抜けていく。その後を追いかけるかのように、ざわめく音が辺りに小さく響いた。
「気が付きました?」
ふと顔を上げると、前足でちょいちょいと頭をいじくるナハトの姿があった。
「何だよ……くすぐったい」
零次は顔をゆるめながら手で軽くナハトの肉球を避けると、ゆっくりと上体を起こした。
「ナハト……」
「何ですかニャ?」
ヒゲを撫でながらナハトは答えた。
「その様子だと……そろそろ話してもよさそうですかニャ。もしかしたら、もうお気づきかもしれませんが……」
「ああ。……このトリップにいたのは、二人だけだったんだろ?」
「その通りですニャ。そしてそのほかの人たちは、僕が呼び寄せた霊たちです」
「なるほどな。どうりで何か変だと思った」
いくらでも食べられるし、動きも早く疲れもしない。危険が迫っても咄嗟にかわすことが出来る。
「渡したいものがありますニャ」
そういってナハトが取り出したのは――小さな桃色の丸いペンダントだった。
「これを、手に取るのか?」
「ええ」
零次は言われるがままにナハトの前足からペンダントを取った。
闇が一瞬にして消えて、目の前が真っ白な光に包まれる。
その中からぼんやりと浮かび上がってきたのは、かつての零次と天野の姿だった。
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