第1章

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舌打ちしながらその缶を拾い上げるとまたさっきの部屋に戻って行った。 滝沢京子と名乗った女性は、ブーちゃんが戻ってきたのを見ると    「すみません、もう少しですから」 と、頭を下げた。    「あの、よかったらこれでも飲んで頑張って下さい」 ブーちゃんは机の上に少しへこんだ缶コーヒーを置くと    「じゃあ、暖かいうちにどうぞ」 そう云いながら部屋を出た。  管制室隣の仮眠室でちょっと横になって、目を覚ますと顔を洗い、私服に着 替えて帰ろうとしていた時、    「清水さん、電話!」 管制室から大声で呼ばれた。    「はい、清水です」    「清水さんですか。私はH金属の総務の野村というものですが、お忙し     いところ恐れ入りますが、お聞きしたいことがあるのでちょっと弊社     までお越し願えますでしょうか」    「どのようなことでしょう」    「電話ではちょっと・・・」    「判りました、これから伺います」 せっかく着た私服をまた制服に着替えると、巡回車に乗って、H金属へ向かっ た。  受付で来意を告げると、すぐに応接室に通され、事務の女性がお茶を運んで きた。 待つほども無く電話での重厚な声に似合わない、やせてふちなしのメガネを掛 けた五十歳代の背の高い男性が現れた。    「お呼び立てしてすみません。私、総務部長の黒岩と申します」 黒岩と名乗った総務部長は丁寧に腰を折りブーちゃんに名刺を差し出した。    「恐れ入ります。清水です」 ブーちゃんも名刺を出しながら丁寧に挨拶すると    「早速ですが清水さん、今朝私が出勤すると、御社の警備カードが机の     上に置いて有りまして」    「それは私が昨晩受付カウンターに置いたもので、多分受付けの方が、     部長さんの机に置いたのでしょう」    「いえいえ、それは弊社の決まりですから良いのですが・・・。     実は、昨晩と云うか夜中ですか、清水さんが実際にうちの滝沢と会っ     た事とでお話を伺いたくて・・・」    「はあ」 どうも黒岩部長の歯切れが悪い。    「清水さん、単刀直入に伺いますが、本当に、滝沢京子が仕事をしてい     たのですか?」    「ええ、確かに滝沢京子さんと名乗りました。そのカードにも詳しく記
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