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何年ぶりだろう、こうして家族5人がそろ
ってテーブルを囲むのは。
真一を中心として会話が弾んでいるみんなを
見ながら浩司がそんなことを思っていると、
傍らに置いてある電話が鳴った。
「はい、井上です」
伸江が出てみるとS市にいる母の敬子からで
ある。
「あ、伸江さん?真一が帰って来ているんだって?」
「はい今朝帰ってきて、今お昼ごはんを食べているところです」
「じゃあ、ご飯を食べてから来るのかしら」
「真一がそんなことを言っていました?
聞いてみましょうか?」
伸江は振り返って
「真一、S市のおばあさんがいつこっちに来るのかって聞いているけど」
「俺だっていろいろ忙しいから、S市
には行かないよ」
真一が言う声が電話越しに聞こえたらしく
「あら、じゃあ私がそっちに行くわ」
ほとんど来た事も無い敬子はそういって電話を切った。
「おばあさん、こっちに来るそうよ」
「ふーん、まあ来るのは勝手だけど、俺はこれから出かけるからいない
よ
「おいおい」
今まで黙っていた浩司が口を開いた。
「それじゃあ、おばあさんが可哀相じゃあないか」
「しょうがないよ、俺だっていろいろ会いたい人がいるんだから」
「お兄ちゃん、彼女のところに行くんでしょう」
そんな美代子の声に
「うるさい、子供は黙ってコーラを飲んでいろ」
夕方、まだ明るい時間に敬子がやってきた。
だが、その時には真一はもう出かけてしまっ
た後である。
伸江は気の毒がってしきりに敬子を慰めてい
たが、どうにも仕様がなかった。
「じゃあ、お父さん晩御飯をご馳走になって帰りましょうよ。
そ
のうち、真一も帰ってくるでしょう?」
「おばあちゃん、無理無理、お兄ちゃんは彼女のところへ行ったんだか
ら
今晩は帰って来ないわよ」
「美代子!」
伸江は目で美代子を叱りつけた。
「だって、本当の事だもん」
伸江に向かって「べー」と舌を出すと
「おばあちゃん、ごゆっくり」
美代子は軽やかに2階へ上って言った。
「全くしょうがないんだから。
お母さん、今晩お泊まりになって行ったらいかがですか
お父さんもそうすれば久しぶりに、ゆっくり真一のお土産のお酒が飲
めますし」
「うん、そうだなあ」
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