共通の秘密

13/36
前へ
/36ページ
次へ
 ミキとわたしを含めてゼミではいつもいっしょだった五人ですが、卒業以来この三年のあいだ、会ったものはひとりもおりません。はじめわたしはそれをただの怠慢だと信じました。わたしたちがメールで連絡をとることがあってもじっさい会うことがないのはわたしたちが近くに住んでいてすぐにいつでも会えるからという安心感を持っていてそれにかまけて会っていないというだけなのだと信じようとしました。しかしそれはたんに先生のいうようにそれがただの偽りの友人関係だったのかもしれません。わたしたちはそもそも友だちでもなんでもなかったのです。思い出せば大学時代も望美も裕子もミキも孝志も、どいつもこいつもテストのまえにしかわたしに連絡をしてきませんでした。わりとまじめに課題に取り組んでいたわたしはあの四人からうまく利用されていただけにちがいなかったのです。  そして先生がおっしゃるように、きょうもひたすらドレスを次から次に変え愛想を振りまいている前方にいる新婦の小林ミキは、この期におよんでも自分の結婚式の人数合わせだけのためにわたしや先生を使おうとしていたにちがいなかったのです。 「先生、出ましょう」  わたしはいいました。先生はすこし驚いた様子でしたが、すぐにわたしの心境の変化を察したように立ち上がり、 「いきましょう」いいました。わたしたちはだれにもなにも告げずに会場を出ました。トイレにいくとでも思ったのか、わたしたちをとめるものはおりませんでした。もしくはやはり先生の考えたようにわたしたちはただたんに、そこに必要とされていなかったのです。  表参道からタクシーにのりわたしたちは下北沢へ向かいました。なぜ下北沢だったかというのはおそらくこれもいまから思えばということですが、そこに先生のアパートがあったためだと思います。タクシーにのると先生は下北沢にいきつけのおいしい居酒屋があるのでそこにわたしを連れていきたいといいました。きょうは土曜日だからこの辺りは混んでいてどこも入れないだろう。でも下北沢のその居酒屋ならそうゆう心配もないだろうということでした。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加