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すこしいじわるな様子でいいました。
「もちろんです」わたしがあわてた様子で答えると、
「なんだかこうやって話していると、きみがわたしのゼミにいたときを思い出すね」笑いながらいいました。
「先生、わたしは自分ではけっこうまじめな生徒だったと覚えています」すこし弁解気味にいうと、
「ほお」いって先生はすこし考えてから、
「それは失礼。はて、それではわたしのゼミに『菊川』という名前の生徒は、二人もいたのだろうか」
わたしが困った顔をしていると、先生はそれをまたじっくりと鑑賞してから、今度は声を出して笑いはじめました。ひととおり笑ってしまうと先生は、すこしぼんやりとした目をして前方の新郎新婦を眺めてから、
「それでも、若者には大変な額だよ」いい、追加のビールを注文しました。
配ぜん係の女の子がビールを持って来ると、先生はその子に対してすこしおおげさにみえるくらいに丁寧に会釈しました。そして女の子がいってしまうと、今度は小声でわたしに耳打ちするように、
「まあ、わたしくらいの歳になるとね、最低、五万円だよ。親族なら、十万円」
すこし得意気な様子でいいました。そしてコホンとひとつせきをしてから、
「それでも若い夫婦の懐を潤す、多少の支援にでもなればいいのだけどね」
今度は二度、コホンコホンとして、
「しかし皆が皆、このように身の丈に合わない必要以上に盛大な披露宴をするとだね、ご祝儀はほとんど新郎新婦の手元に残らないだろうね」
「先生、親族の方にきこえます」わたしは先生を制するようにいいました。
先生はなにもいわずにただ笑顔を返しました。
配ぜん係の女の子が前菜の皿を下げに来ました。先生は、
「ありがとう」いってまたおおげさに会釈して彼女にほほえみました。しかし彼女が去ってしまうとすぐに、
「やっぱりこれはビジネスだね」いいました。
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