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「こうやって何十年も教える仕事をやっているとだね、レポートをちょっとみただけでわかるようになるのだよ」むしろ得意気にいいました。
「すみませんでした」わたしが申し訳なさそうにいうと、
「なぜきみが謝るのだね」いってほほえみました。
「学生がばれないようにどれだけ工夫を加えてもね、そのなかのいったいどれがオリジナルで書かれたものか、そういうものは簡単にわかるものだよ」
いってわたしにウィンクをしました。
スープが終わると今度は魚料理が運ばれてきました。手元にあったメニューには「マトウダイのポワレ 青梗菜添え は白菜のソースといっしょに」書いてありました。
「ほぉ、これもお・い・し・そうだ」
先生はそのようにいって白身魚を口に入れました。満足そうに目を閉じ、
「お・い・し・い」
思った通り、そういうふうにいいました。そしてテーブルの上のパンに手を伸ばし、
「きみがウェディングプランナーの仕事をしていると聞いたときも、きみの性格にあったいい仕事だと思ったがね」白菜のソースを付けて食べました。
先ほどまであれほどまでに批判をしていた日本の結婚産業を今度はそれに所属するわたしのために「いい仕事だ」肯定するのです。カメレオンというかなんというか、先生はやはりひとのことを相当に気にする方でした。
「菊川くん、下の名前はなんだったかな?」先生が訊きました。
「薫です」答えると、
「そうだそうだ、薫くん。菊川薫くん。きれいな名前だったということを覚えているよ」いってまたわたしにウィンクを投げかけました。
わたしは自分の名前がうつくしいと他人から褒められることがはじめてではなかったのですが、あのときの先生のいい方になぜか無性にはずかしさを覚えました。おそらく、それもいま思い出せばということですが、あのときわたしはすでにあの日に起こるなにかを予感していたのかもしれません。
「それにしてもここの食事はおいしいね」
「オープニングムービーの演出はとてもよかった」
「MCの方も慣れた感じでいいね」
「小林ミキくんのドレスはとてもセンスがいい」
「新郎は頼りがいがありそうだね」
「ふたりにはほんとうに幸せになって欲しいよ」
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