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「まあ、きみはまだかもしれないが、最近では若い子たちも結婚式が頭痛の種になっているというじゃないか」声のトーンをすこし厳しく戻していいました。
「そもそも結婚式が原因でけんかしてわかれるカップルもいるらしいからね」
まるでなにか新しい発見でもしたかのように両目をおおきく広げていいました。わたしがまたあいまいに相槌を打つと、
「それではまあ、本末転倒だよ。結婚式なんてね、やりたくなければやらなければいいのだよ」
わたしは回りをすこし気にしました。
「それともやっぱりあれだろうか。結婚式というのは、やはり新郎新婦のためというよりも、もう先のない、『じじいばばあ!』のためなのかなあ!」
叫ぶようにいいました。わたしはあわてて、
「先生! そんなことをいったら、ダメですよ」制するようにいいました。
「なにが、ダメ? なんだね?」先生は納得がいかない様子で訊きました。
「それは、だって、親族の方たちに聞こえますから」
「なにがダメなものか、ほんとうのことをいって、なにがわるい!」
「先生、声がおおきいです」わたしは先生の腕をつかみました。
わたしは先生を落ち着かせるためにパンをオーダーすることにしました。パンを食べることで人間の神経が落ち着くというわけではありません。ただ、わたしはこのテーブルに第三者が介入することによって先生のムードがすこしでも変わってくれれば、企んだのです。あんのじょう配ぜん係の女の子がパンを持って来ると先生は落ち着いた様子をみせはじめました。
先生は世間体をとにかく気にする方でした。
「世間体などを気にするヤツはバカだ」
「正直に生きていないヤツは、ほんとうにはずかしい」
いつもかみついていたのは先生自身が世間体を強く意識していたということを意味していました。
しかしふしぎなことですが、先生は自分自身がそういったコンプレックスを持っているということをご自分でもよく理解されていたようでした。
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