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「─────あれは? 一人だけオール持ってない」
「ああ、あの人はコックスです。ボートって背中を向けて進むじゃないですか。舵取ったりスピード調節したりといった司令塔の役割なんですよ、あの人は」
「ふうん・・・何か楽そうなポジション」
「そんな事ないですよ」
コックスの大変さを間近で見て知っている真央は語調を強める。
「漕ぎ手八人を纏めるのは簡単な事じゃないです。メンバー全員に信頼される人間じゃないといけないんだから・・・」
「そういうもの?」
「です。難しいポジションです。私なんか一人だから気楽な方です」
「ふーん・・・」
コンビニで飲み物を買ってボートの練習場所がある公園に戻ってきた竹野と真央は、木陰のベンチに並んで座ってさっきからどこかのチームの練習風景を眺めていた。
ボート競技に関して何もかもが初めての竹野が繰り出す疑問に、真央はできるだけ答えた。
しばし黙ってしまった竹野を他所に真央が岸の方に視線をやると、見覚えのあるユニフォーム姿が目に入った。
久しぶりに上村の大学チームが練習に来ているようだった。
真央は座ったまま頭だけ動かして上村の姿を探す。
「知ってる人でもいた?」
急にソワソワしだした真央に竹野は気付いた様子だ。
「知ってる人っていうか・・・」
「もしかして彼氏?」
「・・・・なんでしょうか? 付き合ってほしいって言われてメアドは交換したんですけど、それきりで一週間以上何も無いんですよ・・・彼氏ってそんなものですか?」
「んー・・・お互いがそう思ってれば恋人でいいんじゃないの?」
「私は・・・すっごく好きってわけでも別に毎日会いたいとかメール欲しいとか、あんまりそういう事も思わないんです」
夜寝る前、真央は一応携帯を枕元に置いてはいるが、連絡が無い事に落ち込むより日中の練習の疲れが勝ってあっけなく寝落ちしてしまうのだった。
「人それぞれだと思うけど」
「私ダメなんです。夜は疲れてすぐ寝ちゃうんですよ」
「あれだけ激しく体動かしてたらそうだろうね」
「・・・私の方からしたほうがいいのかな。男の人からみてどうですか、私のような体育会系女子って?」
「ははっ・・・自分から言うんだ、そこ」
「笑わないでください、真剣に聞いてるのに・・・」
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