第1章

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 高校生活の間しか出来ない部活を頑張っているだけで、どうしてああまで言われなくてはいけないのか。真央は下を向くと眦に浮かんだ涙が落ちそうになるので空を見上げると、そこは綺麗な茜色が広がっていた。  バッグの中からスマホの振動音が聞こえた。取り出すと母親からで、マヨネーズが無くなったから帰りに買ってきてとあった。  了解と返信してバッグに仕舞うと自転車の鍵を取り出した。大好きなゆるキャラと竹野といっしょに飲んだ紅茶のおまけに付いていた猫のストラップが仲良く揺れている。  真央はスンと鼻をすすり、心のモヤモヤを吹き飛ばす勢いでペダルを踏み込んだ。  次の日の練習も潟で行われたが、真央は終始練習に徹した。  上村も練習に来ている事は遠くに見える練習着姿でわかったが、敢えて視線をそちらに向けないようにした。  チームメイトもさすがに大会一週間前ともなれば真面目な顔つきで、真央を冷やかすような者はいなかった。  練習が終わってからも、さっさと片づけを済ませた真央は一人で帰宅の途についた。  練習だけに集中する毎日の中で終業式があり、そして夏休みになった─────。  夏の国体県大会予選日はギラギラとした夏の太陽が照りつける暑い日となった。  真央は試合の準備をしながら色んな事を思った。  コーチの後輩丸二は本当に来ているだろうか。  その場から視線を巡らせたところでボートの試合会場は川のためやたらと広い。向こうから手を振ってもらうかしないと真央の方から見つけるのは無理な話だった。  試合日が連休と重なったため今日は真央の両親も妹を連れて応援に来ていた。こちらは慣れたもので待機場所のテントを目ざとく見つけて、真央がウォーミングアップしているところに激励にやって来た。  上村の事がふと真央の頭を過ぎった。  先週の別れ方を思えばおそらく来ないだろうと、真央は早々に諦めた。  そんな事より今日のこの試合だ。  優勝すればインターハイの出場権を得られる。出られたらいいなと憧れていたものが、今年は手に届くところまできているのだ。   「真央招集掛かるよ。準備いい?」  監督の声に真央は大きく返事をして立ち上がった。  意識がもう試合の事集中していて、部員達の励ましの声がどこか遠くから聞こえてくるようだった。 「よし」
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