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友人Aこと山田の話
「山田ー」
廊下で呼び止め止められ、山田は背後を振り返った。
ショートカットの女の子が駆け寄って来る。隣のクラスの河合だ。一年の時は同じクラスで、たまたま席が隣同士になった時に意気投合した。以来、男女の垣根を越えた友情を持続させている。
「今日、部活休みだよね? 何か用事ある?」
「特にないけど」
「だったらちょっと付き合って」
「どこに?」
「繁華街のカフェなんだけど…ドリンクの無料券の日付が今日まででさ。クラスのコと行く予定だったのに、向うに急用が入っちゃって」
無料を強調されたカフェへの誘い。用事はないし同行に不満もない。
「いいよ」
「ホント? よかったぁ」
さもほっとしたように河合が笑う。その笑顔に、お役に立ててと笑い返し、山田は急かす河合と共にカフェへ向かった。
友人Bこと森の話
「森先輩。ちょっといいですか?」
廊下に出るなりそう声をかけられ、森は背後を振り返った。
肩より低い位置に相手のつむじが見える。こんなに小柄な女の子は知る限り一人しかいない。中学から一緒の後輩・林だ。
「どうした?」
「あの、今日って部活休みですよね? 何か、用事とかありますか?」
「いや、もう帰るだけだけど」
口にした途端、どこか不安そうだった林の顔がぱっと明るくなった。それと同時に、今までよりもう少し力強い声が用件を訴えてくる。
「実はアタシ、繁華街にあるカフェのタダ券持ってるんです。その有効期限が今日までなんですよ。それで、先輩には日頃からお世話になってるんで、ささやかに恩返しさせてもらえたらなぁって」
「え。いいよそんなの。恩返しとか言われても、特に何ってことしてないし」
「そんなことないです! 前に貸してくれた数学の参考書、すっごく役に立ったし、部活の悩みのアドバイスも嬉しかったし、それ以外にも色々色々、先輩にはお世話になりっ放しなんですから、たまにはお礼させて下さい」
「あ…うん。そこまで言ってくれるなら」
返事をするなり林が満面の笑みを浮かべる。その態度に微笑ましさを覚えながら、森は林と共に件の店へと向かった。
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